英語と人生

英語の練習・学習方法と人生のあれこれ

次男

その男には兄と妹がいた。兄は一流と言われる企業に入り、順調に出世し、世界各国に支店長として駐在した。妹は会社を経営している社長夫人となって都会の大きなマンションに住んでいた。

 

一方、男は小さな会社に勤めていた。そして家族とともに、同居する老いた両親の面倒を見ていた。病気がちな母親の代わりに買い物に行き、足の悪い父の体を毎晩マッサージした。

 

ある夏の夜、男は父の足をもみながら半分ぼけた父に話しかけた。「お兄ちゃんは最近また出世したらしいで。もうすぐ役員になる可能性あるんちゃうか。」 「・・・。」 「さやかの旦那さんも仕事、順調で今度アメリカに支店出すみたいやで。」 「・・・。」 「それに比べて俺は万年ヒラや。給料も兄貴の10分の1くらいやで。」 男は笑って父に語りかけた。

 

父親は黙って聞いていたが、やがて、「お前はここにおる。それで十分や。」と聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。